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月別アーカイブ: 2025年9月

建築板金雑学講座

皆さんこんにちは!
有限会社銅春、更新担当の中西です。

 

さて今回は

~ニーズとやりがい~

雨仕舞いの匠から“外皮エンジニア”へ

屋根・外壁・笠木・水切り・谷樋・見切り……建築板金は、建物の“外皮”の最後の一手を担います。雨・風・日射・温度差・塩害に最前面で向き合い、意匠も性能も同時に成立させる仕事。ここでは現場目線で、いま求められているニーズ(要求)と、この仕事で感じられるやりがいを整理し、実装のヒントまでまとめます。


1|いま現場が板金に求める「10のニーズ」

  1. 止水と排水の“連続性”
    一次止水(シール・テープ)と二次防水(下葺き・立上り)が切れずにつながる納まり。谷・入隅・開口周りでの“逃げ”と“かえし”が必須。

  2. 耐風圧・熱伸縮への配慮
    長尺立平は固定点とスライド点の設計、嵌合金具の選定、エキスパンションの配置。風荷重と温度差を図面で説明できること。

  3. 通気・結露抑制
    通気層の確保、軒先・棟の換気断面、透湿防水シートと金属外皮の相性。夏季の遮熱、冬季の結露を“建築物理”で解く。

  4. LCC(ライフサイクルコスト)とメンテ性
    塗膜グレード、下地材、ビス・リベットの材質統一、交換しやすい役物分割。初期費だけでなく「何年もつか」を数値で提示。

  5. 改修・カバー工法の提案力
    既存の歪み・段差・下地劣化を吸収し、撤去レスで雨仕舞いを更新。住みながら工事・夜間工事への段取り力。

  6. 意匠との両立
    細い見付け、曲線や外R、異素材(木・石・ガラス)との取り合い。ディテールで“軽やかさ”と“影の出方”をコントロール。

  7. 品質の“言える化”
    膜厚・色差・トルク・写真記録・材料ロットの管理。引渡し時に「なぜ大丈夫か」を資料で説明できること。

  8. 安全・環境配慮
    墜落・切創ゼロの計画、低VOC接着剤、端材の分別・リサイクル、梱包のリターナブル化。発注側の評価指標に直結。

  9. BIM/CADとの協働
    早期の納まりレビュー、干渉チェック、拾い出しの精度向上。変更指示をデータで素早く反映。

  10. BIPV・高断熱外皮への拡張
    屋根一体型太陽光、断熱下地、遮熱仕様など“外皮パッケージ”としての提案力。


2|“やりがい”はどこから来るのか——7つの瞬間

  1. 図面が“雨を捌く立体”に変わる瞬間
    谷の水が想定どおりに流れ、立上りで一滴も逆流しない。見えない機能が完璧に働く快感。

  2. 難所を納め切った達成感
    パラペットの連続折返し、R天端と笠木の取り合い、ルーバー基部の防水……“ここが勝負”を一発で決める仕事の手応え。

  3. 美しさと強さの両立
    細い見付け、影の通り、縦ハゼのリズム。意匠に寄り添いつつ強度も確保できたときの誇り。

  4. 数字で語れる職能
    耐風圧・換気断面・熱伸縮量・膜厚……感覚だけでなく数値で説明し、監督や設計の信頼を獲得できる充実感。

  5. 長持ちが街の風景をつくる
    10年後も色褪せず、漏らず、静かに機能し続ける。自分の仕事が街の耐候性を上げている実感。

  6. 多職種と噛み合う一体感
    防水・大工・外装・サッシ・電気と“同じ地図”で進む。段取りがハマって現場がスムーズに流れた日の満足。

  7. 後進に技術が継がれる喜び
    動画SOPや3D断面で新人が1つずつできるようになる。技が共有財産になっていく手応え。


3|発注者別「ニーズの翻訳」早見表

  • 設計者:断面図での納まり確証、意匠と性能の両立、変更時の即応、LCA/EPDの資料。

  • 現場監督:工程短縮、仮設の合理化、雨養生の確実性、写真・検査記録の整備。

  • 施主・管理者:長寿命・清掃性、将来交換の容易さ、保証内容、色・艶の経年変化。


4|そのまま提案できる「サービスパッケージ」

  • 外皮健診パック(改修向け)
    赤外線+目視+散水で漏水原因を診断 → 写真レポ&改修案(3案)提示。

  • 納まりレビュー(設計協働)
    BIM/CADで接合部の3D断面セットを作成。一次止水/二次防水/通気の連続性を可視化。

  • 品質“言える化”パック(新築向け)
    膜厚・色差・トルク・写真・ロットをQR台帳化。引渡し時にPDF一式を提供。

  • 長寿命メンテ設計
    笠木や役物をメンテナンス可能な分割に。交換手順・推奨周期を併記。


5|現場で効くチェックリスト(抜粋)

雨仕舞い・通気

  • 立上り高さ/水返し寸法は規定以上か

  • 通気層は連続し、棟・軒で有効断面が確保されているか

  • シールは一次止水で、二次防水と“二段構え”になっているか

熱伸縮・固定

  • 固定点とスライド点の位置・ピッチは図面明記済みか

  • 異種金属接触・電蝕の対策(スペーサ・同材化)があるか

品質記録

  • 膜厚・色差・締付トルクの実測値を記録したか

  • 写真は“全景→中景→接写(要点)”で残せているか

安全

  • 親綱/先行手すりが計画され、切断・折曲げの養生も準備したか


6|短いケーススタディ

ケースA:海沿いの低層ホテル・笠木からの漏水

  • 原因:下端のシール依存+通気不足。

  • 対策:二次防水の立上り見直し、笠木内に通気ルート、固定金具の同材化。

  • 結果:漏水ゼロ、室内の結露軽減、清掃性も改善。

ケースB:長尺立平屋根・夏冬で鳴き音

  • 原因:固定ピッチ過多&スライド不足。

  • 対策:固定・スライドの再配分、クリップ変更、棟・軒の換気増強。

  • 結果:異音解消、熱膨張による波打ちも収束。


7|“やりがい”を育てる職場の仕掛け

  • 見えるゴール:1日の“完成断面”をチームで共有し、到達度を写真で振り返る。

  • 言語化された技:3D断面と短尺動画で要点をSOP化。属人技を共有資産に。

  • 数字で褒める:漏水ゼロ日数、手戻り件数、膜厚合格率など“見えない努力”を指標で評価。

  • 顧客の声を近づける:引渡し後の“効いている”実感を現場にフィードバック。


8|90日アクション(すぐ効く三手)

0–30日

  • 主要な取り合い(笠木・開口・谷・軒)の3D断面テンプレ作成。

  • 膜厚・トルク・写真・ロットを束ねるQR台帳を整備。

31–60日

  • 改修向けに外皮健診チェックシート(散水手順・撮影角度)を標準化。

  • 工程初期に納まりレビュー会(設計・防水・板金)を定例化。

61–90日

  • 完成3現場のデータで「手戻りゼロ要因」を抽出→SOPへ還流。

  • 施工実績をLCC・メンテ性付きで事例化し、次受注へ活用。


おわりに——“外皮を任される”という誇り

建築板金の価値は、雨仕舞い・熱・風・意匠・安全を横断的にまとめ上げ、建物の寿命と快適を底上げするところにあります。
ニーズは高度化していますが、求められる本質は変わりません。
水を正しく導き、素材を活かし、数字で語り、記録で守る。

その積み重ねが、街の風景を強く、美しく、長持ちさせます。
今日の一折りが、十年後の“漏らない・錆びない・美しい”をつくる。——この確かさこそが、建築板金の最大のやりがいです。

 

 

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建築板金雑学講座

皆さんこんにちは!
有限会社銅春、更新担当の中西です。

 

さて今回は

~変遷~

 

雨仕舞いの匠から“外皮エンジニア”へ

建築板金は、屋根・外壁・雨樋・笠木・水切り・役物…建物の“雨を受け、流し、守る”部位を、金属板で形にする仕事です。素材・工法・道具・求められる性能は、社会の変化とともに大きく進化してきました。ここでは、現場視点で「何がどう変わったか」「これから何が要るか」を一気に整理します。


1|素材の変遷:銅・亜鉛鉄板から高耐久合金へ

昔:

  • 寺社や洋館では銅板、住宅では**トタン(溶融亜鉛メッキ鋼板)**が主役。加工性に優れる一方、腐食・退色への備えが課題。

いま:

  • **ガルバリウム鋼板(Al-Znメッキ鋼板)**が標準に。塩害・酸性雨に強く、薄肉でも耐久性と成形性を両立。

  • **フッ素樹脂塗装(PVDF等)**で色あせ抑制、長期美観を実現。

  • 意匠・海岸部にはステンレス、チタン、チタン亜鉛、アルミなどの高耐食・軽量素材を適材適所で選択。

これが意味すること:
素材選定は“色”だけでなく腐食環境・温度変化・熱伸縮の計算を含む“性能設計”。板金は意匠仕上げから外皮性能の要へ。


2|工法の変遷:手成形の瓦棒から、ハゼ・立平・カセットへ

昔:

  • 瓦棒葺き・波板が主流。現場で曲げ・叩き・嵌める手成形中心。

  • 雨仕舞いは経験則に依存し、納まりは職人の引き出し勝負。

いま:

  • 立平(縦ハゼ)・嵌合式立平・横葺き嵌合・はぜ折りが普及。クリップ固定+熱伸縮スライドで長尺でも破断を防ぐ。

  • 外壁は金属サイディング/角波/スパンドレル/金属カセットが標準化。二重折り返し・差し込み・シール一次止水+二次防水の考え方が浸透。

  • 屋根一体型太陽光(BIPV)や通気層付きの金属外皮で、断熱・通気・結露抑制を“外皮システム”として設計。

キーワード:
“一次止水×二次防水×通気排湿”。見切りと水返し、ドレイン経路の連続性が性能の要。


3|道具と生産の変遷:金槌からCNC・ロール成形・デジタル計測へ

昔:

  • 金切り鋏、ツカミ、ハゼ締め器、吊子…手道具で細部を作る“音と勘”の世界。

いま:

  • 現場成形ロールフォーマーで40m級の長尺立平を“継ぎなし”で製造。

  • 工場ではNCベンダー・CNCタレットパンチで役物を高精度量産。

  • 計測はレーザー測量・ドローン写真測量で屋根寸法と勾配をデータで合意

  • 品質はトルク管理・膜厚計・色差計・画像検査で“言える化”。

結果:
段取りは紙からBIM/CAD図と拾い出し表へ。**歩留まり計算(ネスティング)**で端材を削減し、誤発注・やり直しを減らす時代。


4|求められる性能の変遷:雨仕舞い→外皮総合性能へ

昔:

  • 主眼は漏らさないこと。風荷重・地震・結露は“現場合わせ”。

いま:

  • 耐風圧・水密・気密・断熱・遮熱・遮音・防火を同時に満たす外皮。

  • 熱橋(ヒートブリッジ)対策通気層の設計屋根裏の換気遮熱塗装など建築物理の知識が必須。

  • 伸縮・クリープに配慮し、固定ピッチ・クリップ仕様・エキスパンションを図面に明記。

  • 海岸・工場隣接など腐食環境区分に応じた素材・塗膜選定が当たり前に。


5|安全・法規・品質の変遷:職人技+標準化

昔:

  • 高所作業は経験頼み、墜落・切創のリスクが常態。記録は少ない。

いま:

  • 親綱・フルハーネス・先行手すり・仮設足場が前提。

  • 製品保証と紐づくため、施工写真・検査記録・材料ロットの保存が必須。

  • 防火区画・準耐火に合う不燃材下地・下葺き材の指定、屋根30分耐火の仕組み理解など法規対応力が価値に。


6|市場の変遷:新築偏重からリノベ・ストック長寿命へ

昔:

  • 新築が中心。標準納まりで回転重視。

いま:

  • カバー工法(既存上から新設)や葺き替え庇・笠木の改修が増加。

  • 雨漏り診断→原因特定→改修設計→施工→保証をワンストップで提供する板金店が台頭。

  • 景観・意匠の要件も高まり、立体曲面のハゼ葺き、丸波のR納まり、特注笠木の長尺シーム溶接など、**“美しく納める技術”**が差別化に。


7|環境・サステナの変遷:LCAで語る板金へ

昔:

  • 廃材は産廃へ。環境は“意識”。

いま:

  • 材料LCA(CO₂原単位)やEPDの提示、リサイクルルートの整備、梱包材のリターナブル化が発注要件に。

  • 高反射(クールルーフ)や太陽光一体一次エネルギー削減に直結。

  • 長寿命化=最小の環境負荷という価値観が浸透。


8|人材・教育の変遷:熟練+デジタル+チーム

昔:

  • 見て覚える徒弟制。図面は手書き、拾いは暗算。

いま:

  • 動画SOP・3D納まり図・部材拾いアプリで新人立ち上げを高速化。

  • 現場監督・設計者・板金・仮設・防水が一体で“納まりレビュー会”。

  • 職人は“叩けるだけ”ではなく、合意形成と記録もできる“外皮エンジニア”へ。


9|現場で効く「今どきの納まり」チェック(抜粋)

  • **一次止水(シール・テープ)二次防水(下葺き・立ち上げ)**の連続性

  • 水返し・水切りの寸法(10mm以上/通気層の確保)

  • 熱伸縮スライドの可動長さと、固定点の位置

  • 見切り・笠木勾配・かえし、継手部の重ね方向

  • 塩害・工場環境での素材・塗膜ランクの適合

  • **屋根換気(棟換気・軒先換気)**の有無と有効断面

  • 施工記録:トルク・膜厚・写真・ロットの保存


10|これからの建築板金:外皮DXと一体施工へ

  • BIM連携で躯体・防水・板金の干渉をプレで潰す。

  • 現場ロール成形+ドローン計測で“長尺・継ぎ目なし・短工期”を当たり前に。

  • BIPV/通気外皮/高断熱下地を一体で提案できる“外皮パッケージ”が主戦場に。

  • デザインでは曲線立平・異素材コンビ(木×金属)黒系マットなどの“静かな高級感”が継続トレンド。


建築板金は、トタンを叩く職から建物の性能を担う外皮エンジニアへと進化しました。
素材は賢く、工法は精密に、道具はデジタルに。求められるのは、雨仕舞い・熱・風・音・火を横断する総合力です。

次の現場では、

  1. 通気と二次防水の連続性

  2. 熱伸縮の逃げ

  3. 記録と合意の“言える化”
    の3点から見直してみてください。

美しく、強く、長く持つ外皮は、板金の現場から生まれます。あなたの一折りが、建物の寿命を静かに伸ばしています。

 

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